※画像はイメージです。広島県立歴史博物館
Hiroshima Prefectural Museum of History
概要
博物館の概要と草戸千軒
広島県立歴史博物館は、一九八九年(平成元年)に福山市に開館した広島県の総合歴史博物館である。本館の最大の特色は、芦田川河口に所在した中世の幻の都市遺跡「草戸千軒町遺跡」の出土資料を体系的に展示していることにある。草戸千軒町は鎌倉時代から室町時代にかけて繁栄した川湊(かわみなと)の商業都市で、一七世紀に洪水によって忽然と姿を消した「日本のポンペイ」とも称される遺跡であり、その発掘調査で得られた膨大な遺物は中世日本の庶民生活を生き生きと伝えている。同館には草戸千軒の復元ジオラマや多数の出土品が展示されており、広島県内最大の文化財資料を誇る施設として、研究者・観光客の双方から高い評価を受けている。
備後国の刀剣文化
広島県の東部は旧国名で「備後国」(びんごのくに)と呼ばれ、備前国(岡山県東部)に隣接する重要な刀剣産地であった。備後国では古くから備前伝の影響を受けた刀工が活躍しており、特に三原(みはら)を中心に「三原物」と称される一群の刀剣が制作された。三原物の祖とされる正家(まさいえ)は鎌倉時代末期の刀工で、その端正な備前風の作域は後世の備後刀工たちの規範となった。また室町時代には三原義景・三原景継など優れた刀工が続出し、備後三原は備前長船と並ぶ中国地方の一大刀剣産地としての地位を確立した。広島県立歴史博物館では、このような備後国の刀剣文化を地域史と密接に結びつけた形で展示しており、備前隣国ならではの独自の刀剣文化を学べる数少ない施設である。
刀剣・武具コレクションの内容
同館の刀剣・武具コレクションは、広島県内各地の旧家・神社・寺院から寄託・寄贈された資料を中心に構成されており、備後国の武家文化を物語る一次資料として高い価値を持つ。備後三原物の刀剣のほか、毛利氏・浅野氏など広島藩の歴代藩主に関連する刀剣・武具も収蔵しており、広島の武家史を通覧できる内容となっている。毛利元就は中国地方を統一した戦国大名として有名だが、その武具・武器の記録と実物資料も一部同館に収蔵されており、中国地方最大の戦国武将の武装文化を知る手がかりとなっている。また刀装具についても各時代の特色ある作品が揃っており、日本刀の附属品としての刀装具の変遷を学べる展示も充実している。
草戸千軒の出土刀剣と中世の武器
草戸千軒の発掘調査では、刀剣・武具の断片・鉄製品など中世の武器関連の出土品も多数得られており、中世の商業都市における武器の流通・使用の実態を研究する上で貴重な資料群となっている。刀の茎(なかご)・鍔(つば)・目釘穴などの断片資料は、当時の刀剣制作技術や流通の実態を考古学的に明らかにする重要な証拠であり、文献資料だけでは知ることのできない中世刀剣文化の一側面を照らし出している。同館ではこのような考古資料と伝世資料を合わせて展示することで、中世刀剣文化の多層的な理解を促す展示設計を採っている。
毛利・浅野両氏と広島の武家文化
広島県は中世から近世にかけて二つの大きな武家の統治を受けた土地である。戦国時代には毛利元就が巧みな外交と戦略で中国地方を統一し、毛利氏十カ国支配の拠点となった。江戸時代には関ヶ原の戦い後に浅野長晟が入封し、以降明治維新まで広島藩四十二万石を治めた。毛利氏・浅野氏それぞれの武家文化は刀剣・甲冑の収集においても特色があり、毛利氏の豪壮な戦国武将らしい武具と、浅野氏の洗練された江戸大名の美意識を体現した刀剣が同館のコレクションで対比できる。毛利元就の「三矢の教え」に象徴される武家の精神文化と刀剣の関係も、展示を通じて学ぶことができる。
備前・備後の刀剣産地比較
備後国と境を接する備前国(現岡山県南東部)は日本最大の刀剣産地として世界的に知られており、長船(おさふね)の地に代表される一大刀剣産業が中世から継続した。備後三原物はこの備前長船と密接に交流しながらも独自の様式を育み、端正な刃文・優美な姿・緻密な地鉄など備前伝の美点を継承しつつ独自の備後らしさを加えた作品群は、両国の文化的交流の産物でもある。広島県立歴史博物館では備後の刀剣を備前と比較する形で鑑賞できる展示が組まれており、日本刀文化の地域的多様性を実感できる。備前と備後の刀剣を見比べることで、日本刀の産地による微妙な違いを深く理解する絶好の機会が提供されている。
企画展と地域連携
年間を通じて複数の企画展が開催され、備後国の歴史・文化に関連したテーマが中心となる。刀剣・武具の企画展も定期的に実施され、備後三原物の特集や、広島県内各地の武家伝来品の公開展示は刀剣愛好家に高い評価を受けている。福山市内には福山城(重要文化財)・福山市立博物館・鞆の浦の歴史的景観など豊富な文化資源があり、本館と組み合わせた文化観光コースは中国地方を代表するルートとして知られている。広島市内や岡山市内からの日帰り訪問も可能な好立地から、備後の刀剣文化研究の重要な拠点として機能している。
見どころ
- 備後三原物(みはらもの)── 鎌倉末期の正家を祖とする備後三原の刀工群の作品。備前に隣接しながら独自の端正な作域を育んだ、中国地方独自の刀剣文化
- 毛利氏・浅野氏ゆかりの武具── 中国地方を統一した毛利元就、および江戸期の広島藩主・浅野氏に関連する武具・刀剣資料。広島武家史の一次資料
- 草戸千軒出土の中世刀剣資料── 鎌倉〜室町期の商業都市遺跡から出土した刀剣断片。考古資料から迫る中世刀剣流通の実態
- 備前隣国ならではの刀剣文化── 日本最大の刀剣産地・備前国と境を接する備後の刀剣文化。両産地の影響関係と独自性を比較できる
- 草戸千軒復元ジオラマ── 中世の川湊都市を精巧に復元した大型ジオラマ。刀剣が流通した中世商業社会の実態を視覚的に体感
※開館時間・展示内容は変更される場合があります。訪問前に公式サイトをご確認ください。