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※画像はイメージです。日本刀の素材である玉鋼(たまはがね)は、砂鉄(さてつ)と木炭を炉に交互に投入して鉄を取り出す「たたら製鉄(せいてつ)」によって作られる。だが「たたら」と一括りに語られるこの製鉄法には、目的の異なる二つの操業法が存在する。「鉧押し(けらおし)」と「銑押し(ずくおし)」だ。
両者は同じ箱形の炉と砂鉄・木炭を使いながら、炉の温度管理や砂鉄・炭の投入の仕方を変えることで、得られる主産物を作り分ける。この違いを理解すると、玉鋼がなぜ貴重で特別な素材なのかが見えてくる。
鉧押しは、炉の底に「鉧(けら)」と呼ばれる大きな鉄の塊を生成させることを目的とした操業法だ。三日三晩にわたって砂鉄と木炭を投入し続け、炉の中で鉄が半溶融状態の塊として成長していく。
操業が終わると炉を壊し、重量数トンに及ぶ鉧を取り出す。この鉧を破砕し、破面の色や質を見て等級分けすると、最良の部分が玉鋼として選別される。日本刀に用いられる玉鋼は、この鉧押しによって得られる鋼で、炭素量は約1〜1.5%と比較的低めに抑えられている。炭素量が高い(約3〜4%)のはむしろ銑押しで得られる銑鉄(ずく)の方であり、硬くて脆いためそのままでは鍛造に向かない。鉧押しは比較的低い温度帯で操業され、鉄を完全には溶かさず固体に近い状態で取り出す点に特徴がある。
一方の銑押しは、炉内をより高温に保ち、炭素を多く含んで融点の下がった鉄を「銑(ずく=銑鉄)」として液状に流し出すことを主目的とする。流れ出た銑鉄は鋳物の材料になるほか、後述する脱炭処理を経て鍛造可能な鉄へと加工された。
銑鉄は炭素量が高く、そのままでは硬くて脆く、刀の鍛造には向かない。そのため銑押しで得た鉄は「大鍛冶(おおかじ)」と呼ばれる工程で炭素を抜き、包丁鉄(ほうちょうてつ)などの鍛えやすい素材へと変えてから利用された。
鉧押しと銑押しの最大の違いは、鉄を固体の塊として得るか、液体として流し出すかという点にある。これは炉の温度帯と操業時間、そして砂鉄と炭の比率の管理によって作り分けられた。
日本刀に最適な玉鋼は鉧押しから得られる。鋼が完全に溶けきらないことで、不純物や炭素の分布に「むら」が残り、その不均質さがかえって折り返し鍛錬による組織の精錬や、地鉄(じがね)の景色を生む素地となる。均一に溶かして作る近代の鋼とは出発点からして異なるのだ。
鉧押しで得られた玉鋼は、そのまま刀になるわけではない。刀匠の手に渡った玉鋼は、まず熱して薄く打ち延ばし、急冷して砕きやすくする「水減し(みずへし)」と「小割り」を経て、小さな破片に分けられる。刀匠はその破面を見て炭素量の高低を選別し、選んだ破片を積み上げて一体に鍛接する「積み沸かし」を行う。
そこから始まるのが、よく知られた「折り返し鍛錬」である。鋼を打ち延ばしては折り返して重ねる作業を繰り返すことで、不純物が火花となって排出され、炭素量が均され、幾重もの層状の組織が生まれる。たたらの不均質な鋼を出発点とするからこそ、この丹念な精錬の工程に意味があるといえる。
折り返し鍛錬で生まれた層は、研ぎ上げられた刀身の表面に「肌」として現れる。木の板目のように見える板目肌(いためはだ)、年輪状の杢目肌(もくめはだ)、まっすぐに通る柾目肌(まさめはだ)といった肌模様は、鍛え方と鋼の性質の組み合わせが生む景色である。さらに、地肌の中に細かく輝く粒子は地沸(じにえ)、黒く稲妻のように走る働きは地景(ちけい)と呼ばれ、いずれも鋼の質と鍛えの妙が生む見どころとされる。
刀を鑑賞するとき、刃文だけでなく地鉄の肌に目を凝らすと、その一振りがどんな鋼から、どのように鍛えられたかという来歴の痕跡を読み取ることができる。鉧押しのたたらから始まる長い工程の最終地点が、手元の刀身の肌に刻まれているのだ。
現在、日本刀用の玉鋼を供給するたたら操業は、島根県奥出雲で公益財団法人日本美術刀剣保存協会が運営する「日刀保たたら」によって冬季に行われている。ここで行われているのは鉧押しであり、全国の刀匠へ供給される玉鋼の主要な源となっている。
鉧押しと銑押しという二つの操業法を知ると、玉鋼が「ただの鉄」ではなく、特定の操業思想のもとに選び抜かれた素材であることが理解できる。一振りの刀の地鉄を眺めるとき、その背後にある製鉄の選択にも思いを馳せてみてほしい。
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