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※画像はイメージです。日本刀の造込み(つくりこみ)は、刀身の断面形状と刃の付け方によって分類される。大多数の日本刀は表(おもて)側だけに刃を付けた「片刃」の構造を基本とするが、「両刃造り(もろはづくり)」は刀身の表裏双方に切刃を持つ、きわめて特異な形態である。
構造上は、棟(むね)の部分が薄く削られ、両面が刃として機能する。通常の鎬造りや平造りとは異なり、峰側にも刃文が入ることが多く、全体に細く鋭い菱形断面を持つ。平安時代以前の「剣(けん)」に起源を求めることができ、儀礼・神事・武器のいずれの文脈にも登場する形態である。
日本における両刃刀剣の最古の例は、弥生・古墳時代に大陸から伝来した「剣」に遡る。この時代の剣は儀礼的・呪術的な意味合いが強く、戦闘用途とは別の文脈で珍重された。奈良・平安初期には正倉院にも両刃の剣が収蔵されており、宮廷刀剣文化の中で特別な地位を占めていた。
東北地方では「蕨手刀(わらびてとう)」と呼ばれる独自の刀剣が発達した。先端が蕨の芽のように丸まった形状で知られるが、刃部に関しては両刃・片刃の双方の例が存在する。坂上田村麻呂の蝦夷征討(801年)以降、律令国家と対峙した蝦夷(えみし)が用いたとされるこの刀剣は、後の日本刀の湾曲形態への移行を考えるうえで重要な過渡的形態でもある。
平安末期から鎌倉期にかけて日本刀が急速に発達する中で、両刃造りは主流からは外れるものの、一部の刀工が特殊用途向けに制作し続けた。鎌倉期以降の両刃造りは主に短刀・剣の形態で見られ、神社奉納や武家の秘蔵品として伝来することが多い。
南北朝時代(14世紀)には大型化・豪壮化の傾向の中で、剣形に近い大型の両刃造り刀剣も制作された記録が残る。ただし現存作例は少なく、国宝・重要文化財に指定されるものは限られる。両刃造りの刀剣は実戦使用よりも奉納・儀礼目的が多かったためか、比較的良好な保存状態で残るものが多い特徴がある。
両刃造りが特に多く見られるのは、神社に奉納された「御神刀(ごしんとう)」の領域である。神道においては、剣は「禊(みそぎ)」や「祓(はらえ)」の象徴として用いられ、両面から「穢れを祓う」という意味合いで両刃の剣が好まれた側面がある。
三種の神器の一つとされる「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」も、古代における両刃の「剣」の延長線上に位置づけられる。神宮・大社に伝わる御神体や神宝の中には、両刃形式の刀剣が含まれるものがあり、その多くは一般には公開されていない。
現代においても、神事で用いられる刀剣には両刃形式のものが存在し、斎串(いぐし)や神楽で使われる「形代(かたしろ)」としての剣形刀剣には両刃の例が少なくない。
日本刀の造込み分類において、両刃造りは「諸刃造り(もろはづくり)」とも表記される。刀剣研究の文脈では片刃系の刀(太刀・打刀・脇差・短刀)とは別立ての形態として扱われ、「剣類」に分類される場合が多い。
刃文の付き方については、両面に刃文が施されるものと、一方の刃文が省略されるものとがある。本格的な両刃造りでは両面に焼き入れが施されるが、技術的にきわめて難しく、刀工の熟練度が問われる工程である。片面の刃金(はがね)が反対側の焼き入れ時の熱で影響を受けやすく、温度管理と冷却の制御が通常の片刃刀以上に求められる。
両刃造りでは土取り(焼き入れ前に塗布する粘土)を両面に施す必要があるため、土の厚みの均一性と塗り方に特殊な技術が求められる。一方を焼いた後に反対側を焼く「片面ずつ」の手法を採る刀工もいれば、一度に両面を焼き入れする試みをする刀工もあり、各刀工の工房ごとに工夫が異なる。
刀剣市や美術品オークションでは、江戸期以前の両刃造り古剣が出品されることがあり、希少性と形態の特異性から一定の需要がある。コレクターの視点では、主流形態と異なる造込みの美しさと、神道・仏教との深い関係性が評価の軸となる。
鑑定においては、両面の刃文の質と均一性、鎬(しのぎ)の稜線の美しさ、茎(なかご)の形状と銘の有無が重要な評価基準となる。刀剣保存会(日本美術刀剣保存協会)の審査では、両刃造りも通常の審査対象であり、保存・特別保存・重要・特別重要の各ランクへの申請が可能である。
現代の刀匠でも、注文制作や奉納刀として両刃造りの剣を鍛えることがある。文化庁の刀匠登録制度の下で、剣(両刃形式)の制作は太刀・短刀と同じ資格の範囲内で認められており、制作本数制限(年間24本)の中にカウントされる。日本刀の多様な造込みを理解するうえで、両刃造りは「日本刀以前」の刀剣文化と「日本刀の成立」をつなぐ橋として、専門家・愛好家ともに重要な研究対象であり続けている。
日本刀×日本文化体験
観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。