新着情報 — 最新の入荷情報はカタログをご確認ください。 商品を見る →
※画像はイメージです。日本刀の鞘塗りは、古来より漆(うるし)を扱う塗師(ぬりし)が担ってきた専門技術である。単なる「塗装」ではなく、木工・素材加工・意匠設計が渾然一体となった複合的な職人技で、一振り仕上げるまでに数ヶ月を要することも珍しくなかった。
名のある塗師の手になる鞘は刀装具の中でも高い美術的評価を受け、単体で鑑定書付きの取引対象となることもあった。
昭和13年(1938年)制定の九八式軍刀で「茶革包み(ちゃかわつつみ)」が標準として採用された背景には、複数の要因が重なっている。
九八式軍刀の鞘に使われた革は「茶染め牛革」が基本で、木地には主に朴材が用いられた。革の厚さはおおむね1.5〜2ミリ程度で、木地全体を包む形で接着・縫製された。鞘口(こぐち)付近の補強、および帯執(おびとり)・栗形(くりがた)・鐺(こじり)との接合部には特に丁寧な仕上げが求められた。
金具は鉄製が多く、後期には資材不足から真鍮・亜鉛合金も使用された。茶革との組み合わせは実用本位の軍刀らしい質実剛健な印象を与えた。一方、将校が個人で注文する高級な「拵え(こしらえ)」では、九八式の形式を踏まえつつ金具を銀製・金鍍金にしたり、革の代わりに漆塗りを採用したりする例も見られた。
戦況悪化に伴い資材不足が深刻化した昭和19年(1944年)以降は革の質が低下し、合成皮革や布張りが代用材として使われた例も確認されている。同時期には金具の省略や木地の粗雑化も進み、終戦直前には品質水準に著しいばらつきが生じていた。
軍刀の制式が革張りへ移行した後も、漆塗り鞘の技術は「美術刀剣の拵え」として命脈を保ち続けた。
将校が私費で注文する刀剣や、戦後に制作される「居合刀」「演武用刀」では、伝統的な漆塗り鞘が引き続き求められた。昭和20年代以降、日本刀の美術品としての再評価が進む中で、黒漆・朱漆の優美さ、赤銅・金銀象嵌を引き立たせる地処理としての価値が再認識されるようになった。現代の刀職は依然として伝統的な漆塗り鞘を製作し、高級刀剣の「拵え(こしらえ)」として欠かせない要素となっている。
歴史を通じて「時代の要請に応じて技術を進化させながら本質を守る」——鞘職人の営みにはそうした職人文化の本質が凝縮されている。
日本刀×日本文化体験
観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。