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※画像はイメージです。「切羽詰まる」「しのぎを削る」「反りが合わない」。どれも日常で使う言い回しだが、切羽・鎬・反りはいずれも日本刀の部位や刀装具の名前だ。刀を腰に差していた時代の道具の名が、刀を持たなくなった後も言葉の中に残っている。
ただし「刀から来た言葉」として紹介される語には、辞典で由来を確かめられるものと、そうでないものが混じっている。本稿では、コトバンクに収録されたデジタル大辞泉と精選版日本国語大辞典(以下、日国)の語釈を手がかりに、刀の部位ごとに言葉の成り立ちを整理する。部位の名前は刀剣用語集でも引ける。
鍔は柄と刀身の境に付ける金属製の護拳で、柄を握る手を守る。その鍔の名を含むのが「鍔迫り合い」だ。デジタル大辞泉は第一義を「打ち合わせた刀を鍔もとで受け止めたまま互いに押し合うこと」とし、第二義に「勢力に差がなく、緊迫した状況で勝負を争うこと」を置く(デジタル大辞泉「鍔競り合い」〈Weblio 収録〉)。鍔そのものの見どころは鐔鑑賞入門にまとめてある。
鍔の表裏に添える薄い金属板が切羽である。デジタル大辞泉の「切羽」の項は、第一義に「刀の鐔の表裏が、それぞれ柄と鞘に接する部分に添える薄い金具」、第二義に「差し迫っていること。また、その場面。急場。どたん場」を並べ、日国も同じ見出しの下に両方の意味を載せる(コトバンク「切羽」)。「切羽詰まる」の切羽が刀装具の切羽と同じ語であることは、ここから確かめられる。
一方で、刀装具の名がなぜ「どたん場」の意味を持つようになったのかは、両辞典の語釈には書かれていない。「切羽が詰まると刀が抜けなくなるから」と説明されることもあるが、辞典で裏付けられる由来ではないので、本稿では定説としては扱わない。切羽の形や作り手については白銀師の仕事が詳しい。
鎬は刀身の最も厚い稜線だ(鎬の幾何学)。「鎬を削る」について、日国は「互いの刀の鎬を削り合うようなはげしい斬り合いをする。転じて、はげしく争う」とし、初出の例に南北朝頃の『曾我物語』の「たがひにしのぎをけづりあひ」を挙げる。デジタル大辞泉も「激しく刀で切り合う。転じて、激しく争う」と書き、補説で「凌ぎを削る」と書くのは誤りだと注意している(コトバンク「鎬を削る」)。
反りは刀身の湾曲の度合いを指す(日本刀の反りとは)。デジタル大辞泉の「反り」の項は第四義に「(刀身と鞘との関係から、『そりが合う』『そりを合わせる』などの形で用いる)人の性向や、世の風潮。また、それとの相性」を挙げる(コトバンク「反り」)。刀身と鞘の反りが合わなければ刀は鞘に納まらない。その関係が人どうしの相性に移ったというのが辞典の説明だ。
焼き刃は焼き入れで硬くなった刃の部分で、刃文はその境に現れる。「付け焼き刃」について、デジタル大辞泉は第一義を「切れない刀にはがねの焼き刃をつけ足したもの。見た目は切れそうに見えるが、実際はもろくて切れない」とし、第二義を「その場をしのぐために、知識や技術などを一時の間に合わせに習い覚えること」とする(コトバンク「付焼刃」)。日国は第二義の用例に 1825 年の歌舞伎『御国入曾我中村』の「ほんの人真似、附け焼刃」を引く。本来の焼き入れの工程は刀身の焼き入れ技術で扱った。
「元の鞘に収まる」は、デジタル大辞泉が「いったん絶交または離縁した者が、再びもとの関係に戻る」と語釈を示すだけで、刀との関係を由来として書いてはいない(コトバンク「元の鞘に収まる」)。ただし日国が初出に挙げる浮世草子『椀久一世』(1685)の用例は「中脇差は元の鞘におさまる事」で、脇差を主語にした一文である。鞘を作る職人の仕事は鞘師の技と素材で紹介している。
「鞘当て」は語釈に刀との関係が出てくる。デジタル大辞泉は「武士が道で行き違うときに、互いに刀の鞘に触れたのをとがめ、争うこと」とし、「転じて、ささいなことからおこるけんか・争い」と続ける(コトバンク「鞘当て」)。
部位ではなく刀そのものを指す語にも、辞典が第一義に刀の意味を置くものがある。
刀以外の武具や鍛冶の仕事場から出た言葉もある。「相槌を打つ」の相槌は、デジタル大辞泉では「鍛冶で、二人の職人が交互に槌を打ち合わすこと」が第一義で、刀の鍛錬での槌の掛け合いは相槌の呼吸で扱った。「采配を振る」の采配は武将の指揮具で、軍配とはで触れた。
刀の字や刀剣の道具を含んでいても、日本刀の部位から出たとは言い切れない語もある。
由来を確かめるなら、辞典の語釈と初出の用例を見るのが確実だ。言葉を知っておくと、刀を見るときにも切羽や鎬、反りに目が向く。出品中の刀剣は刀剣一覧で閲覧できる。
日本刀×日本文化体験
観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。