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※画像はイメージです。享保の改革(1716〜1745年)後期から始まる元文・延享・寛延の約15年(1736〜1750年)は、徳川第8代将軍・吉宗が統治した時代の後半から第9代・家重の治世初期に相当する。元文元年(1736年)から延享元年(1744年)までは吉宗が将軍職にあり、家重が将軍に就任したのは延享2年(1745年)である。家重は言語障害を持つ将軍として知られ、実質的な政務は側用人・大岡忠光が取り仕切った。この時代の刀剣文化を理解するうえで、まず元文元年(1736年)の幕府による貨幣改鋳(元文改鋳)を押さえる必要がある。
元文改鋳では金銀の品位を下げた新貨幣が流通に投入され、経済の流動性が高まった。武家の経済事情は依然として厳しかったが、貨幣量の増加が物価上昇をもたらし、刀剣の売買価格も緩やかに上昇した。刀剣商にとってはこの時期、古刀(こと)の価格が特に上昇し、名刀の売買が活発化した。一方で刀工(かじ)への注文は激減することなく、平和な治世が続く中での刀剣需要——実用よりも美術品・礼装品としての需要——が市場を下支えした。
元文〜寛延期は、江戸全体に剣術稽古の熱が高まった時代でもある。8代吉宗が享保年間に武芸奨励令を出して以来、武士階級に剣術修行への意識が定着し、各流派の道場が江戸市中に林立した。この流れを引き継いだ家重治世においても、剣術への関心は衰えなかった。特に元文5年(1740年)に四谷で道場を開いた神道無念流をはじめ、この時期に組織化を進めた諸流派が道場門弟の数を拡大させた。
剣術の盛行は、稽古用の木刀・竹刀に加えて、免許皆伝や入門の際に使用する「本身(ほんみ)」の刀剣需要を生み出した。高段位の剣客は実際に打刀を用いての型稽古を行っており、刃を落とした稽古用の刀(稽古刀)が刀工に発注された。また剣術道場の師範が門弟に贈る「允許状(いんきょじょう)」には、刀剣を添える慣習があったため、比較的廉価な実用刀への需要も一定量存在した。
この時代の刀剣を語るうえで見逃せないのが、刀装具(拵え)の意匠変化である。元禄期(1688〜1704年)に頂点に達した豪華絢爛な刀装は、正徳・享保の倹約令によって一時抑制されたが、元文以降は再び装飾的傾向が復活しはじめた。鍔・目貫・縁頭(ふちがしら)の意匠には、中国の故事や和歌に取材した文人趣味の図柄が好まれ、肥後金工や後藤家の影響下にある鐔師たちが精緻な彫金・象嵌を手がけた。
刀身の形態としては、この時期の新刀(しんとう)は寛文以降の細身で反りの浅い姿を継承しつつも、少しずつ反りを加えた「中頃鍛え」の姿が好まれるようになる。著名な刀工としては、越前大掾藤原国次の系統に連なる江戸・大坂の刀工が活発に活動しており、江戸新刀の様式を基本としながら地域的特色を残す「地方新刀」が量産された。
元文〜寛延期は、武家礼法の整備・成文化が進んだ時代でもある。先代吉宗が奨励した「武芸」と「礼法」の両輪政策のもと、藩校での礼法教育が充実し、帯刀の作法——刀の差し方・納め方・相手への示し方——が細部にわたって規定された。江戸城内での帯刀規則(殿中差の種類・長さ)も、この時代に既に慣行として定着していた。
特に、将軍への拝謁や公式の場における「具足太刀(ぐそくたち)」「式台差(しきだいざし)」など儀礼的な帯刀形式の使い分けが、武家の格式を示す重要な要素として意識されるようになった。拵えの豪華さや刀剣の格(銘刀・無銘・代刀等)も、社会的地位の表象として機能した。こうした礼法の整備が、刀剣を単なる武器から「武家の身分証明」へと昇格させる過程を促進した。
元文〜寛延期における地方刀工の状況は、江戸・大坂の中央と地方藩城下町の二極構造を基本としていた。幕府および大名に抱えられた「御用鍛冶(ごようかじ)」は、安定した石高(給米)を受ける代わりに年間一定数の刀剣を献上する義務を負い、経営的には保護された環境にあった。一方、無抱えの独立刀工(「町鍛冶」)は市場での競争にさらされており、有名銘の偽銘を切るなどの問題も発生していた。
地方の主要産地では、大坂の河内・摂津系刀工、薩摩の波平(なみのひら)系刀工、越後の越後刀工などが各藩の需要に応えながら独自の技術を保持していた。江戸〜宝暦期の刀剣市場は、こうした多様な産地が並立する複雑な構造を持っており、元文改鋳後の経済的流動性の高まりが産地間競争をさらに激化させた。この時代の刀剣文化は、宝暦・天明期の新たな隆盛期への橋渡しとして、日本刀の歴史において重要な位置を占めている。
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