※画像はイメージです。隅谷正峯
Sumitani Masamine
解説
隅谷正峯(すみたにまさみね、1921〜1998)は、昭和・平成の現代刀匠を代表する巨匠であり、1981年(昭和56年)に日本刀の製作技術において重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。石川県松任市(現・白山市)出身で、備前伝の正統を近代に継承・再興した刀工として日本刀史に不滅の名を刻む存在である。
正峯の生涯は、廃刀令以降に衰退した日本刀鍛冶の復興に捧げられた。師・桜井正幸のもとで鍛刀技術を修め、戦後の混乱期にも刀鍛冶の道を歩み続けた正峯は、古備前・長船の作風を徹底的に研究し、鎌倉時代の長船派が誇った精緻な丁子乱れ(ちょうじみだれ)と映り(うつり)の復元に生涯をかけた。
正峯の作刀の最大の特徴は、備前伝特有の華麗な丁子乱れの再現にある。地鉄(じがね)は小板目(こいため)が精密に詰んで明るく潤いのある肌合いを示し、映り(うつり)が地に立つ典型的な備前肌を呈する。刃文(はもん)は大丁子(おおちょうじ)・蛙子丁子(かわずこちょうじ)・逆丁子(さかちょうじ)など多彩な丁子変化が盛んに展開し、刃縁(はぶち)は明るく冴えた匂口(においくち)が均整よく走る。古備前・長船期の名作をモデルとした徹底的な復古的再現は、現代の技術では不可能と思われていた鎌倉丁子の再生に成功したとして、刀剣界に衝撃を与えた。
また、正峯は刀身のみならず、鍛えの過程における玉鋼(たまはがね)の品質管理と鍛冶炉の温度管理に独自の研究を重ね、古刀期の製鉄技術の再現を試みた。現代の刀鍛冶が使用する玉鋼は、日刀保(にっとうほ)が供給する復元玉鋼であるが、正峯はこの玉鋼の特性を最大限に引き出す鍛冶技術を確立し、後進の育成にも多大な貢献を果たした。門下からは多くの刀匠が育った。
作風は備前丁子を中心としながら、山城伝・大和伝の穏やかな直刃仕立ての作例も少なくなく、伝法の幅広さも正峯の技量の証といえる。銘は「正峯」「備前長船住正峯」などが確認されており、個人や美術館のコレクションに広く所蔵される。刀剣博物館には正峯の代表作が複数収蔵されており、現代刀の最高峰として今日も評価され続けている。
代表作
- 太刀 銘 正峯(重要無形文化財保持者指定作品)
- 刀 銘 備前長船住正峯(刀剣博物館蔵)
- 太刀 銘 正峯 丁子刃(特別重要刀剣)