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※画像はイメージです。明治維新以降、近代製鉄業の台頭によって日本の伝統的製鉄技法「たたら製鉄」は急速に衰退した。一時は全国から姿を消したかに見えたたたら製鉄が、現代に生きる形で復活した背景には、日本刀という文化的要請があった。
日本刀の刀身に使用される「玉鋼(たまはがね)」は、たたら製鉄によって生産される鉄のみから作られる。炉内で砂鉄を木炭で還元・溶融させることで生じる不均一な鋼塊(玉鋼)は、現代の工業的製鉄では再現できない独特の炭素分布と結晶構造を持っており、日本刀の地鉄・刃文の形成に不可欠な素材とされている。
この「玉鋼の国産供給」を維持するために設立されたのが、公益財団法人日本美術刀剣保存協会(NBTHK)が運営する「日刀保(にっとうほ)たたら」(島根県仁多郡奥出雲町)である。
日刀保たたらは、日本刀の原料供給という文化的使命を帯びた施設であり、毎年冬季(1〜2月頃)に年3回(三代)の操業を行い、玉鋼を年間約3トン生産・頒布する。冬季に操業する理由は、湿度の低い季節に行うことで炉内の水分量をコントロールしやすいという実用的な理由と、古来の慣習に基づく季節性の両方による。
操業は「村下(むらげ)」と呼ばれるたたら製鉄の最高責任者が指揮し、「大工(だいく)」「小鍛冶(こかじ)」「炉前工(ろまえこう)」など役割分担された職人チームが共同で作業する。1回の操業(3昼夜連続)で生産される鉄鋼の量は2〜3トン程度であり、そのうち玉鋼として使用できる最高品質の部分は全体の約3分の1から4分の1程度に過ぎない。
原料となる砂鉄は、島根県を中心とした中国山地の「鉄穴流し(かんなながし)」跡や砂鉄採取地から調達される。木炭は松炭・楢炭などが用いられ、その種類と配合も炉内の温度制御に影響を与える重要な変数である。
村下は、たたら製鉄において最も高度な技術と判断力を要する役職である。炉(高殿:たかどの)の状態・砂鉄の品質・木炭の燃焼状況・気象条件を総合的に判断し、砂鉄と木炭の投入量・タイミング・炉への鞴(ふいご)による送風量を調節することで、目的の品質の玉鋼を生産する。
現代の日刀保たたらにおいて村下の技術を継承しているのは、奥出雲地方に代々受け継がれてきた伝統的な鉄師(かなし)一族の技術を継承した者たちを中心とした少数の専門家グループである。村下の技術は文書化・マニュアル化が困難であり、実際の操業経験を通じた長年の習熟によってのみ身につく「体感知」の集積である。
たたら操業は、3昼夜(72時間以上)の連続作業である。炉の温度は1400〜1500℃に達し、その前で砂鉄と木炭を定期的に投入し続ける作業は、体力的にも過酷を極める。
炉前職人の主な作業は、砂鉄の計量と投入、木炭の管理と投入、炉内の状態観察(炎の色・形・音による判断)、鞴の操作(現代では電動送風機を使用)などである。炉から発せられる強烈な輻射熱の中で正確な判断と作業を続けるには、高い集中力と体力が必要だ。
3昼夜の操業が終わると、炉を解体して「けら」(鋼塊)を取り出す「けら出し」作業を行う。けらは炭素含有量によって複数の品質に分類され、最高品質の玉鋼(炭素含有量1〜1.5%程度)は日刀保を通じて全国の刀匠に頒布される。
頒布される玉鋼の量は限られており、日本全国の刀匠が需要を満たすには不足する場合がある。特に著名な刀工や伝統的な鍛法を守る刀匠への優先供給が行われるが、新進の刀匠や若手刀匠が十分な玉鋼を確保することは容易ではない。これが現代の刀匠が直面する素材確保の課題のひとつとなっている。
日刀保たたらが直面する最大の課題のひとつは後継者問題である。村下をはじめとする熟練職人の高齢化が進む中、次世代の担い手育成が急務となっている。奥出雲地方の若者に対するたたら製鉄体験プログラムや、農林高校等でのたたら製鉄学習機会の提供など、新たな担い手発掘の取り組みが続けられている。
また、砂鉄や木炭の調達コストの上昇も経営上の課題となっている。玉鋼の生産コストは、工業鉄の数十倍以上に上ることもあり、文化的使命を担いながらも持続可能な経営を維持することは容易ではない。たたら製鉄という日本の文化的遺産を守るためには、社会全体での理解と支援が不可欠だ。
日本刀×日本文化体験
観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。