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※画像はイメージです。日本刀を鑑賞する際、刀身と鍔の間にある金属の輪状部品「鎺(はばき)」に注目する人は少ない。しかしこの小さな部品こそ、日本刀の機能と美観の両方を支える「縁の下の力持ち」である。
はばきは刀身の棟区(むねまち)から鎺元(はばきもと)にかけてぴったりと装着され、以下の三つの役割を担う。
第一は「刀を鞘に固定する」役割だ。鞘の鯉口(こいぐち)とはばきが摩擦によって噛み合い、刀が自然に抜け落ちることを防ぐ。この噛み合わせの精度が「鞘鳴り(さやなり)」の有無を決定する。良質なはばきは、鞘に収めた瞬間に「カチッ」と静かに噛み合い、逆さにしても抜け落ちることなく、抜刀すれば滑らかに鞘から離れる。
第二は「鍔を固定する」役割だ。はばきは鍔の茎孔(なかごあな)の縁に当たり、切羽(せっぱ)とともに鍔を茎(なかご)の上で安定させる。鍔がはばきと切羽に挟まれることで、刀装(こしらえ)全体が一体の構造物として機能する。
第三は「刀身の保護」だ。はばきが刀身の根元部分を覆うことで、折り返し鍛錬によって生じる鋼の組織が直接外部の衝撃や湿気に晒されることを防ぐ。
切羽(せっぱ)は鍔の両面に置かれる薄い金属の座金で、鍔とはばき・鍔と柄の間の隙間を調整する役割を持つ。素材・厚さ・形状が精密に調整されることで、刀装全体の「ガタつき」がなくなる。
白銀師(しろかねし)は、はばき・切羽・小柄(こづか)・笄(こうがい)など刀装の金属小部品を専門とする職人だ。「白銀」は銀や銀合金を指す言葉で、かつては銀を主要素材として使ったことが職名の由来とされる。
現代のはばきに使われる主要素材は以下のとおりだ。
金(きん): 最高格の素材。金無垢(きんむく)のはばきは大名拵えや奉納刀に用いられた。展延性が高く加工しやすいが、高価なため現代では金着せ(他の金属に金を被覆)が多い。
銀(ぎん): 伝統的な主要素材。白銀師の名の由来ともなった材料。純銀は柔らかすぎるため、銅との合金(スターリングシルバー925等)が使われることが多い。光沢が美しく、磨き上げた銀のはばきは刀身の地鉄との対比が映える。
赤銅(しゃくどう): 金を少量(約4%)含む銅合金で、黒染めすると深みのある黒紫色を呈する。鍔・縁頭と同素材でまとめた拵えの「色調統一」のために使われることが多い。
四分一(しぶいち): 銀を約25%含む銅合金で、灰色の落ち着いた色調を持つ。武家好みのシックな拵えに好まれた。
はばきの製作工程は主に以下の手順で進む。まず素材の板金を鍛造し、刀身の断面形状に合わせて内側を精密に削り出す。次に刀身に仮装着して当たりを確認しながら微調整を繰り返し、最終的にぴったりと噛み合う形状に仕上げる。外側は彫金・鑢(やすり)がけ・磨きによって意匠と光沢を与える。
表面装飾のパターンとしては以下のものが代表的だ。「縦樋(たてひ)」——縦方向の溝——は最もシンプルで一般的な意匠。「一文字(いちもんじ)」——横方向の一本の区切り線——は格調高い伝統意匠。彫金による龍・梅・竹などのモチーフは特注品に多い。金着せは金箔や金薄板を素地金属に接合する技術で、金無垢に近い高級感を生む。TOUKENZAのオンラインカタログで刀剣を閲覧する際は、はばきの素材や意匠にも注目すると鑑賞の深みが増す。
古代の刀においては、はばきに相当する部品が存在しなかった時代もある。平安時代の儀礼用太刀には「兵庫鎖(ひょうごぐさり)」などの精巧な飾り金具が用いられたが、はばきが独立した部品として定型化するのは鎌倉時代以降とされる。
鎌倉・室町時代には刀工自身がはばきを製作することもあったが、江戸時代に入ると刀装の分業化が進み、「白銀師」として専門職が確立した。江戸時代の江戸・大坂・京都には複数の白銀師が存在し、刀工・鞘師・研師とともに刀剣産業を支えた。
著名な白銀師の流派としては、江戸の「平田家」系統が刀装全般の金工を手がけ、白銀師の仕事も内包した。また大名お抱えの職人が藩内で代々はばきを作り続けるケースも多かった。
現代において白銀師は、日本刀関係職種の中でも特に後継者不足が深刻な職種の一つだ。文化庁の調査によれば、現在活動する白銀師の人数は刀工・研師より少なく、一部地域では「白銀師がいないため、刀工が自らはばきを製作せざるを得ない」状況が生じている。
日本刀保存技術協会(NBTHK)は白銀師を「保存技術」の認定対象に含め、後継者育成への支援を行っている。しかし実態としては、習得に必要な修業期間の長さと収入の不安定さが参入障壁となり、若い世代の入職が進みにくい状況が続いている。
一方、現代の白銀師の中には金属加工の先端技術(CADによる型設計・レーザー焼き入れ等)を取り入れながら伝統的な仕上げ技術と融合させる取り組みも見られる。はばきの「内側の精密なフィット」は手作業でなければ実現できない部分が多いが、外形の成形工程を近代的な機械加工で効率化することは現代の白銀師にとって現実的な選択肢になりつつある。
はばきは刀全体の部品の中で最も地味な存在かもしれない。しかし「刀が鞘に収まる精度」「鍔と柄が安定する品質」「刀身の根元が保護される耐久性」——これらすべてがはばきと白銀師の技術に懸かっている。日本刀の美を陰で支えるこの小さな金属部品と、それを作る白銀師の存在に光を当てることは、日本刀文化の全体像を理解するために欠かせない視点である。
日本刀×日本文化体験
観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。